ミッションと継続的改革
ミッションを軸にした継続的改革
孤独死発見の遅れや企業の不祥事などの社会問題が起きると仕組みや制度の問題にするが、果たしてそうなのか?その仕事に関わる人たちのミッション(使命)はどうだったのか?
市場環境が刻々と変わり、打ち出す方策や課題も変わる。次から次と打ち出される課題に対して「なぜその課題か?」と自分の頭で考えることなく部下に指示する。一方、部下も考えることなく受けてこなす。経営層から一般社員まで“こなす・さばく”ことに終始しているが、その仕事に関わる人たちのミッション(使命)はないのか?
自分の頭で考えないということが問題になっている企業が多い。如何に考えさせるか仕組みや制度づくりに取組んでいるが、そもそも仕事に対する思いや使命感がなければ考えることもしない。考えなければ疑問も生まれない。
組織風土改革の現場で感じることは、仕事に対するこだわり、本気で取組もうという人が激減していること。ミッション(使命)を持った人が激減していること。
今、必要なことはもう一度、会社のミッション、部門のミッション、自分のミッション、を明確にし、その使命の下で一人ひとりが自分の頭で課題を考え実行できる環境をつくること。
お客様に一番近い現場の一人ひとりがミッションを持って自分の頭で課題を考え、主体的に実行することで、市場の変化に柔軟に対応できるようになる。
長年、「方針管理」という管理の手法で長期方針・中期方針から期間方針を策定し実行、そして期末に評価するというやり方をしてきたが、「会社の使命」「部門の使命」から自分たちの頭で課題を考え主体的に行動するために「ミッションを軸にした経営」に変える必要がある。
ミッションの浸透
企業のミッションとは企業の存在理由。企業の存在理由は経営理念として表わされるが、経営理念が“絵にかいた餅”と化して、経営理念と現場でやっていることが合っていないことが多くある。立派な経営理念を掲げていても不祥事を起こしていることで証明している。
3.11の東日本大震災の日、東京ディズニーリゾートで働くスタッフがゲスト(お客様)に対して安全を最優先した行動が評価されている。
ディズニーのミッションは「すべてのゲストにハピネスを提供する」。行動指針は「安全性」「礼儀正しさ」「ショー」「効率」の優先順位。3.11の東日本大震災では、9割がバイトでもミッションと行動指針の下で行動し、浸透の深さを証明した。
風土改革を支援しているM社では、従来の「方針管理」という管理の手法から「ミッション経営」に変えた。ミッション経営の浸透法として「経営理念」⇒「全社ミッション」⇒「部門ミッション」⇒「部ミッション」⇒「課のミッション」⇒「主任のミッション」⇒「課題」、と組織の隅々まで浸透させている。部門以下のミッションは全て顧客に向いたもので、各部門が白熱した議論を戦わせ、何度も見直しながら決めていった。
社員の一人ひとりが取組む課題をミッションの下で自分の頭で考え行動することで、より深く組織の隅々までミッションが浸透する。ディズニーのように。
事例 「信頼と安全」をミッションとした開発部門
舞台は大型トラックの開発部門。大型トラックの開発に取り組んだ人たちが掲げたミッションは「信頼と安全」だった。その当時はコンセプトと言っていたがミッションと置き換えることができる。
自分たちの社会的な存在意義と、ものづくりに関わるときの意思決定や実行の “優先基準、判断基準”が必要だと考え、立場や部門を越えて議論した。
「自分たちの仕事の意味は何か」「お客様にとっての安全とは何か」といった青臭い議論を続けた。
そして、生まれたのが『信頼と安全』。
その直後にスタートした新車開発プロジェクトでは「信頼と安全」というミッションの下、開発に取組んだ。
トラックの事故現場に足を運び、ユーザーであるドライバーの人たちや荷主さんに話を聞きながら、「求められる安全」のイメージを明確にしていった。
それを反映した設計では、「事故の際に運転台の生存空間を確保する」ことが最大の焦点になった。開発チームにとっての「安全」は歩行者とドライバーの命を守ることだった。
しかし、生産財のトラックの開発には、燃費を考えた車体重量の軽量化、積載能力を考えた荷台スペースの最大化など、さまざまな要求すなわち制約条件がつきまとう。
お客様基準の開発は要求レベルが高い。チームのメンバーはその厳しい壁を、『信頼と安全』というミッションの下に仲間と協力し合って乗り越えていった。
ドライバーの製造空間を確保するという課題は、衝突し、ハンドルがある程度の力がかかると、ハンドルが砕け散る、肋骨が折れる前に砕け散る、というアイディアが生まれた。
『信頼と安全』という使命の下で開発された新型トラックが試されるときが来た。発売の年に、新型車は東北自動車道で大規模な玉突き事故に巻き込まれた。運転台はめちゃくちゃに潰れ、死亡事故になってもおかしくないような大事故だった。
しかし、そのトラックのドライバーはかすり傷程度で助かった。その家族の方から命を救った車に対するお礼の電話がかかってきた。その電話で開発メンバーが男泣きした。